【第X回 SMAP全体会議】
「木村くん、すごかったねぇ、岐阜のイベント」
11月13日、木村の誕生日に集まったメンバーたちは口々に言った。
11月6日の岐阜信長まつりは46万人を動員、推定経済効果
見事に晴れ渡った青空の元、1kmの武者行列が歓声に包まれた様子は、配信や、テレビや、参加者のSNSなどでたらふく見られた。
「ほんとにいい天気だったね、よかったね木村くん」
吾郎に言われ、当日の抜けるようなとはこのことかという青空を木村は思い出す。
本当に楽しいイベントだったし、面白かった。
「だってさ、中居のパチモンがいたじゃん」
「いたいたー！」
慎吾は剛の肩を叩く。
「つよぽん知らないと思うけど」
「え、何ー？」
「木村くんの信長イベントに、中居くんのパチモンが来てたんだよねー」
どっか映像ないかなと慎吾がスマホを操作し始めたところで、中居が口を開いた。
「あれ、俺」
「…は？」
全員の目が中居に集まった。
「木村の、岐阜のイベントだろ？あれ行ってたの、俺」
俺、俺、と自分の顔を指さす中居から、スマホに目を落とした慎吾は、素早いフリック操作で『中居のパチモン映像』を再生される。
「パチモンじゃん！」
「パチモンに寄せたんだって！」
「なんの必要があってっ！？」
中居は、そうだねぇ、というように少し宙を見上げた。
「あのー、皆さんご存じかどうか解らないんですけど、実はワタクシ、ちょっとお休みをいただくことになりまして」
「「「「知ってるわ！！」」」」
剛でさえツッコんだが、日本国民誰もが知ってるわ！という事態である。
「あ、ご存じ？そうなんです。ちょっとお休みすることになって、とはいえ、身動き取れないとかじゃないんでー。ヒマだなーって…」
「で、岐阜まで来たって？おまえ、バカなのかっ？」
「バカにバカって言ったら悪口だからなっ！」
木村に嚙みつく中居に、吾郎が嚙みつく。
「何、この知能指数は高いけど、やる事がバカっていう振る舞い」
「今のが悪口なのも解ってるからな！」
「えーー？でもこれ絶対中居くんじゃないでしょー、パチモンでしょー？」
フフフ。
慎吾の訴えに中居は微笑む。
「寄せたんだよ」
「寄せたって、こんな完璧なパチモンにー？」
慎吾のスマホに四人は顔を寄せて検証したが、どこからどう見てもパチモンにしか見えない。
「SMAPが見てもパチモンだと思わせる俺の演技力を見ろ！」
「えー、絶対違うだろー？」
自分のスマホに保存してあったパチモン動画を見直した木村の指先が止まる。
「これ、メイクか…？」
「そうそう。パチモンに寄せたメイクや髪型で、極限まで見た目を似せたんだよ」
「何その情熱！」
「だったら芝居の仕事でもすりゃあいいじゃん！」
「それはやだ」
中居は重々しく首を振る。
「中居正広として生まれ、中居正広として育った俺は、他の人間にはなれない」
キリっ！
パチモンに寄せることには近年まれにみる本気を出した中居は、中居正広最高のキリっ！でメンバーを見たが、誰もその中居を見ていなかった。
「解った、解った。ちょっと来いそこの若い衆たち」
「ごめんね。いつまでたっても、木村くんからすれば僕は可愛い一つ年下の弟だと思うけど、慎吾だって、もう同年代だから」
「十分同年代です」
「四十代と五十代だもんな…」
「木村拓哉50歳って、なんかすごいね…」
一瞬しんみりしたが、パーフェクトビジネスアイドル（43歳）は、「でもまだまだたくさん食べられます」と若手をアピール。
気を取り直した木村が、若手三名を改めて手招きした。
「キムタク五十歳の目標を決めました」
「何？」
「どんな卑怯な手段を使っても、中居に演技の仕事を押し付ける」
「押し付けるってなんだ！」
「中居正広役ならいんだろ？おまえら、映画系強いだろうから、どんな卑怯な手段を使ってでも、中居に『中居正広』役を引っ張ってきてほしい。それを俺への誕生日プレゼントにしてもらいたい」
「待て待て待て」
「できるかなぁ…」
三人が深刻な顔になり、中居が待て待てと手を振る。
「木村くんのツテもすごそうだから、木村くんに力も借りたいところだよねぇ」
「それはもちろん。どんな卑怯な手段を使ってでも！」
木村の目は力強かった。
それはもう、出陣前の織田信長のように。
「皆の者ー！」
「キャーーーッ！！」
木村信長の呼びかけに応える三人の黄色い声。
「出陣じゃー！」
「キャーーーッッ！！」
「待て待て待て。なんだ『どんな卑怯な手段』って。なんだなんだ！」
果たしてどんな卑怯な手段を使えば、中居に中居正広役を引き受けさせることができるのか。
木村信長と、その仲間たちによる一年間の挑戦が始まる。
どんな卑怯な手段を使ってでも、木村さんにいい誕生日プレゼントができますように！
２０２２年１１月１３日