木村拓哉様

 

【第X回 SMAP全体会議】

「まぁまぁ、座りなさい、座りなさい」
木村がいつものように、ちょっと早めに会議室についた時、すでに4人は到着していて、木村はお誕生日席に座らされた。
「えっと」
「あ、お誕生日席だけど狭いか!」
座りなさい座りなさい、と、会議椅子を引いていた中居が、下3人にむかって顎をしゃくる。
会議机の短辺をいわゆるお誕生日席として木村を座らせようとしていたが、さすがに幅が狭い。
「机移動!」
「いや、俺が動けば」
「まぁ待て待て」

広い方に移動しようとする木村の肩を、中居がつかむ。
『早く!』
『何!偉そうに!』
もう、むしろ仲良しなんじゃないのか、という中居と吾郎の目と目だけでのいさかい。
どうせ運ばないのに…と、剛と慎吾が会議机の向きを変更し、長辺の中央を木村の前に向ける。
「まあまぁ、さ、お座りなさい、お座りなさい」
「はぁ…」
単なる会議机に、単なる折り畳みパイプ椅子。
そこに座らされて、何が始まるのかと木村が4人の顔を見まわす。
「で?」
「少々お待ちください」
吾郎が会議机に白いテーブルクロスをセットする。
ジャガード織りのテーブルクロスは、吾郎がオーダーして作ったもので、模様の一部に吾郎のシルエットが隠れ吾郎として潜んでいる。
木村はその吾郎を探すのが好きで、どのあたりにあるのかとテーブルクロスを指でなぞりだした。

「ウェルカムドリンクです」

その指の前に、シャンパングラスが置かれる。中にはキールロワイヤルが。
「あー、綺麗な」
「僕?」
「えっ?」
「僕が綺麗?」
「え?あっ、うん…」
「知ってる♪」
「知ってるじゃねぇ!」
どけ!
と吾郎を押しのけた中居は。
「おー!オーナー!」
「どうも!オーナーです!」
ビストロSMAPオーナーの衣装を身につけ、ちゃんとベルを持っている。
私物、である。
『椅子!』と吾郎に目で指示し『そっちの方が椅子の近くにいるでしょうが!』という目をされたのを無視。
お客様である木村の隣に座り、さて、とオーナーのお顔になった。
「木村さん、今日はお誕生日ということですが」
「はい」
「おいくつに?」
「51歳になりました」
「えー!見えませんねー!」
「オーナーさんも見えないですね」
「あ、ご存じでした?私もね、同い年なんですよ」
「あー、どこかで聞いたことありますね、72年生まれなんですよね」
「そうなんですよねー」
にっこり。

「では、いつもはゲストの方にお好きなメニューをおっしゃっていただいるんですけど、今日は木村さんお誕生日ということでね、シェフたちが腕によりをかけたいと申してますので、それでよろしいですか?」
「はい。シェフのおまかせでお願いします」
「承知しました」
立ち上がった中居は、やかましいくらいにベルを鳴らした。
「オーダー!シェフのおまかせー!」
「ウィームッシュ!」
「ムッシュ!」

「え?なんで中居も言った?」
「あ、今日、俺シェフもすんの。悪いけどちょっと待ってて」
「えっ?マジでっ!?」
「これでも見て待ってて!」

ぽつん。

美しいテーブルクロスがひかれた会議机の前に、ポツンと木村は取り残された。

これでも見てとと渡されたポータブルDVDの中身は、売りだせば果たして何万本売れるか解らない、ビストロSMAP傑作選中居セレクションであり、木村はだいぶげらげら笑った。

「まず前菜でございます」

木村の好きな赤ワインに合わせて、華やかな前菜のプレートを吾郎が提供する。
焼き野菜は、吾郎が自分で収穫してきた長野の野菜。
ブルスケッタのバゲットは、木村が教えてくれたパン屋さんのもの。パン屋さん、としかいいようのない素朴な佇まいが吾郎もお気に入りだ。
「やっぱさー、もうこの前菜のプレートが絵画みたいだよね。綺麗な…」
「僕が?」
「え?」
「僕が綺麗?」

「はい、吾郎さん、どいてー」
「まだ木村くんは前菜食べてるでしょうが!」
「それはおいといて、ちょこちょこつまめばいいでしょ?これパスタだから、タイミングがあんの!」
剛シェフが運んできたのは、ミートソーススパゲティに、シーザーサラダ。
「木村くんレシピを参考にして作ってみました。ちょっと剛風ね」
メニューにあれば、ミートソーススパゲティとシーザーサラダを頼んでしまいがち。そして、それだけ食べてきただけに、ミートソーススパゲティとシーザーサラダの仕上がりで、この店はどういう傾向かなんとなく解るようになってきていた。
「じゃあ、いただきます」
吾郎の前菜から、剛のパスタにフォークを動かした木村は、完璧なアルデンテのパスタと、ミートソースを口にして。
「あ、うまーい!」
と素直な感想を伝えた。
「かなり俺の実家の味。でもなんだろ。うちのミートソースに入ってない味があるな…」
「隠し味をね、ちょっと入れてみました。木村くんも、好きなやつだよ?」
「俺も?なんだろ…。なんか香りが…」
普通に作る時より、いい香りがするような気がする。煮込み料理に香りをプラスするなら…。
「あっ!バルサミコ酢?」
「正かーい!さすが木村くん!」

木村が、前菜とパスタ、シーザーサラダを食べ、吾郎、剛は解説をいれたり、ワインを追加したし、わいわいと食事を楽しんでいたところに、デザート職人慎吾が誕生。
「お待たせしました。慎吾ちゃんのアシェットデセールをお楽しみください」

木村の左手側、会議机の半分に、慎吾のアシェットデセールに必要な材料がずらりと並ぶ。
お客様の目の前で作るデザートプレートは、慎吾がやりたいことの一つで、木村のためのたった一皿を作るために、随分前から準備をしてきた。
「パフェもいいかなと思ったんだけどね」
パフェは、縦に構成していくが、グラスのサイズはある程度知れている。
プレートなら、かなり大きなものでも用意できるので、大きな絵を描きたい慎吾にはぴったりだった。

真っ白なプレートに、賑やかな色が乗せられていく。
「見てるだけで元気になりそう」
「でしょうー?」
柿、洋ナシ、ルビーチョコレート、鮮やかな青いソーダのゼリー、色とりどりのソルベ、型も作ったクッキー、プレートのすみっこに、チョコレートで描かれた木村もいる。
「自分で自分を食べるのもどうかと思うけど」
一口ごとが美味しい高い技術で作られたスイーツや、果物たち。でも、見た目は子供が憧れるお菓子の家みたいなにぎやかさ。

「木村くんが、なんだっけ。何かの番組言ったんだっけ?紅まどんな?めちゃめちゃ美味しいよね!」
「美味しい!紅まどんな!毎年お取り寄せ」
「あ、木村くん、知ってた?紅まどんなってブランド名だけど、愛媛果試第28号が正式名称なんだってね」
「え?なんつった?えひめかし?」
「果実の果に、試験の試で、果試」
「へー、そうなんだー」

「さぁさぁ。美味しい前菜、美味しいメイン、美味しいデザートを召し上がったお客様、何か一つ足りてないものはありませんか?」
ちょっと私へとへとです、という顔で、きちんとピンクがアクセントのシェフコートを着た中居がようやく登場する。
「前菜、メイン、デザート…。コーヒーとか?」
「違うわ!」
中居はワゴンを押して木村の近くまでやってきて、どけい!と、木村が描かれた白いプレートを運び出させる。
そして、テーブルの上を一度綺麗に整えてから、大きなクローシュを木村の前に置いた。
「でかい…」
何が入っているのか解らないまま、木村は、クローシュに手をかけている中居を見た。
「前菜、メイン、デザートと来たら、〆はこちでしょう」

じゃん!

と開けられたクローシュの中には、お茶漬け。

「あーやっぱりうちが一番だなーって、さらさらーっと行くでしょ!さらさらーっと」

「解る!」

「ご飯少な目、お茶あつあつ。ほぐし鮭に、南高梅のはちみつ梅!」
「解る!」
「お漬物は、きゅうりの糠漬けにしました!」
「糠漬けとか作れんの?」
「最近は最初っから出来上がってるぬか床があんだよ。キムタクは知らないと思うけど!」

食事が終わって、家に帰って、ほんのちょっと、三口四口でサラサラ―と終わるお茶漬け。
「あー、やっぱりうちが一番」
お茶漬けをさらさらーといただいて、とん、とテーブルクロスの上にお茶碗を戻し。
木村はそう言った。

木村くん51歳おめでとう会が終わり、バースデーボーイ木村が先に退出。残った4人で片づけをする。
「…この根性なしが…」
中居の小声が、慎吾の耳に突き刺さる。
「だったら中居くんが聞けばいいじゃん…!」
「俺が聞ける訳ないだろ!おまえ俺には「死にますか?」とかって聞けるのに、なんで木村には聞けないんだよ!」
「いやー、無理だったわー。事情が解らな過ぎて無理だったー…!」
「まあまあまあ」
吾郎も聞けなかった。
「だって、何聞いていいかも解らないじゃん」
剛は、そもそも、何が起こっているのかが把握できていない。

「まあでも。こんだけぺろりと平らげて機嫌よく帰って行ったから」

色々気にかかることはあるけど。
食べて、笑えてれば、大丈夫だろう。

「来年の誕生日も祝ってやるから、1年元気でいろよ」
「来月は僕の誕生日おありますけどっ?」

何もかも、いつかは上手くいきますように!

木村拓哉様、お誕生日おめでとうございます!

2023年11月13日

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