【第××回 SMAP全体会議】
「おはよーございまーす!」
「「「「おはよう!!」」」」
バースデーボーイ慎吾が会議室に入った時、新人ADたちでもそんな声は出すまいという大きな声で挨拶が帰ってきた。
「え、何?」
「慎吾、誕生日おめでとう!」
木村からハグされ、背中を叩かれ、3人からもおめでとう!と声をかけられる。
「あ、ありがと、ありがと…、って、何っ?」
ようやく木村のハグから抜け出した慎吾は、絶対黒幕であろう中居に聞いた。
「パーフェクトビジネスアイドル、香取慎吾が誕生日を迎えた訳だよ」
「はい」
「であるなら、パーフェクトビジネスアイドルにふさわしいプレゼントを用意すべきだろうと思い」
「はい…?」
「より高いハードルを用意してみました」
「えっ?」
まぁまぁお座りになってと、慎吾はお誕生日席、すなわち会議机の短辺に座らされる。
慎吾の左手の長辺には、吾郎と剛、右手の長辺には、木村と中居がついた。
「パーフェクトビジネスアイドルがさらにさらなる高みに到達するには、高いハードルが必要だと思うんだよ。新しい挑戦が」
木村に熱弁を振るわれ、そりゃああなたはそういうキャラクターですけど、僕はそれほどでは…と心で慎吾は答える。
{では、どういう挑戦かについては私が」
木村が背もたれに体をあずけ、中居が会議机に手をくんで身を乗り出す。
『でしょうね!』
もちろんそうだろう!と心の中の慎吾が叫んでいた。
「…例えば、こういうかつてない番組案がある」
「かつてない?」
「MCが二人のトークバラエティ、ゲストも二人。その二人は、日頃あまり接点がなかったり、なんなら初対面でもいい。憧れの人と初対面とか。その二人がどんな話をするのかというかつてないトークバラエティがあったとして」
「いや!あるね!その番組はすでにあるね!」
「え…?」
四人が顔を見合わせる。
「そんな番組が?すでに?」
「あるね!なんなら出たことあるね!」
「うそぉ!」
中居の驚きはあまりにも白々しくて、この人いい加減演技の仕事やれよ!と思わずにはいられない慎吾は、再度「あるよ!」と言いつのる。
「あ、それでこそパーフェクトビジネスアイドルなんじゃないか?」
木村はあえての白々しい演技て、手を合わせる。
「その心は」
「パーフェクトビジネスアイドルだから、夢の中なんかでそういう斬新な番組を思いつくんじゃないかな」
「あぁ〜!」
なるほどねー、と大げさにうなずき合う三人に、違う違うと慎吾は首を振り続けた。
「パーフェクトビジネスアイドル香取慎吾誕生日記念!MC二人の斬新なトークバラエティーに挑戦ーっ!」
どんどんどん!ぱふぱふー!
剛がスマホから賑やかな効果音を鳴らし、木村と吾郎が拍手する。
「なんで…」
誕生日ボーイ慎吾は中居と並んで座らされている。
「前代未聞のMC二人のトークバラエティーに挑戦していただきます。さぁ、パーフェクトビジネスアイドルは、MCが二人であることをどう活かすのか。そして、今回のゲストは…」
剛のスマホからドラムロールが流れる。
「木村拓哉さん!稲垣吾郎さん!」
「でしょおねぇぇ!!」
「でもこれ、めったにない組み合わせっちゃ組み合わせですよ?パーフェクトビジネスアイドル香取さん」
「でしょうけど…」
「果たしてこの二人から、これまで聞いたことのない新しい話を引き出せたりしますかね。二人をもっと魅力的に輝かせられますか?」
「いや、お二人ともすでに輝きまくってますし」
「うまい!」
ばちばちばちー!!中居が猛スピードで拍手する。
「ゲストを褒めていくスタイルもいいでしょう。でも、褒め続けるのもおかしいし、やはりここは一度シミュレーションに挑戦していただきましょうかね」
「えーーー」
「今日はおいでいただいてありがとうございます」
中居に会釈され、木村と吾郎も挨拶を返す。
「お招きいただいて、どうも」
「え、お二人は普段どうなんですか?」
「待て待て」
木村が手を振る。
「中居がMCの番組になってる」
「おっとぅ〜♪」
中居ちゃんたらうっかりさん♪てへぺろ♪と舌を出しながら、あたまにこっつんと拳を当てる。
「ブスだなー…」
「誰がブスだ!」
「中居くん、ブスの真似上手すぎない!?」
「だから、誰がブスだ!」
「こういうのは愛嬌がある顔って言うんじゃないの?」
木村の言葉に、
「違うね、ブスだね」
と吾郎が返す。
中居のブス顔は、どのくらいブスかについての話がどんどん進む。
剛が、意外なほど的確に効果音を入れてくるのが四人のテンションを上げて、ブス(←あくまでも中居の)トークが盛り上がった。
「あーーー、解ってる、今めっちゃ面白いけど、そういうことじゃねぇー!」
三十分後、中居が天を仰いだ。
木村の笑いが止まらなくなり、釣られて吾郎笑う。
「これ、単に四人が喋ってただけじゃん!」
効果音を乱打しながら、剛も笑った。
「僕はパーフェクトビジネスアイドルだけどさぁ」
慎吾も笑いながら言う。
「今日はビジネス抜きになっちゃうなー♪」
慎吾と剛がMCになって、中居一人がゲストになったり、木村MCが四人を回そうとして、勝手なことすんなー!キレたり、中居と吾郎がMCだと、二人の小競り合いにゲストの木村と剛が泊めに入り続けるしかなかったり。
「笑ったー…!」
慎吾の感想は、四人の感想だった。
「じゃあ、舞台のお稽古行ってきます!」
「行ってらっしゃい!ハッピーバースデー!」
特にプレゼントがあった訳でも、誕生日ケーキがあった訳でもなく、ただただ喋っただけでこんなにも楽しいかと五人はしみじみ思い。
「で、MC二人で、ゲストが一人だったり二人だったりするかつてない斬新なトークバラエティについてなんだけど」
「いや、その話はちょっとどう触れていいのか解らないんで」
木村がハキハキと、吾郎がにっこりと首を振る。
「あれでしょ?あの番組のことでしょ?まつも…」
「やめとけやめとけー!」
「代わりのMC探してるんだよね?」
「やめとけー、剛やめとけー」
「心配しなくてもおまえだけはMC候補に挙がらないから心配すんなー」
慎吾はご機嫌で舞台のお稽古に向かったが、残った四人は、大人の事情というものをしみじみ感じることになった。
それでも、慎吾は誕生日おめでとう!
2024・1・31
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